3Dプリンターでの設計は、デジタルデータをもとに立体物を造形するための重要な工程です。適切な設計を行うことで、強度や精度を確保し、思い通りの造形を実現できます。
本記事では、3Dプリンターでの設計の基本から、アイデアスケッチ、モデリング、スライサー設定、造形後の処理までの流れを解説。さらに、用途別の設計ポイントや、失敗しないためのコツ、便利なソフトウェアも紹介します。
3Dプリンター造形における設計とは?
3Dプリンター造形における設計とは、3Dプリンターで造形するためのデジタルデータを作成するプロセスを指します。従来の製造方法とは異なり、3Dプリンターではデータをもとに材料を積層して形状を作るため、設計の段階で造形の成功が大きく左右するでしょう。
設計には主に3DCAD(コンピューター支援設計)や3DCG(コンピューターグラフィックス)ソフトを使用します。
3DCADは精密な寸法設計に適しており、機械部品や試作品の設計に多く使われる一方、3DCGはフィギュアやアクセサリーなど、デザイン性の高い造形物の作成に向いています。
また、設計データは3Dプリンターで造形できる形式に変換することが必要です。一般的なファイル形式にはSTLやOBJがあり、これらのデータをスライサーソフトで処理してGコードに変換し、3Dプリンターで造形します。
3Dプリンターでの設計の流れとは?アイデアから造形まで
3Dプリンターで高品質な造形物を作るには、設計の流れを正しく理解し、各ステップを丁寧に進めることが重要です。設計は単に3Dデータを作成するだけでなく、実際の造形を想定した最適化が求められます。
設計の流れは大きく分けて下記の4つのステップに分類されます。
- アイデアスケッチとコンセプト設計
- 3Dモデリングの基本と注意点
- スライサー設定とデータ最適化
- 造形と後処理(サポート除去・仕上げ)
各ステップのポイントを押さえることで、造形ミスを減らし、理想的な仕上がりを実現することができるでしょう。
ステップ①アイデアスケッチとコンセプト設計
3Dプリンター造形における設計の第一歩は、アイデアスケッチとコンセプト設計です。
まず、何を作るのかを明確にし、機能やデザインの方向性を決めます。手描きのスケッチやデジタルツールを活用し、形状やサイズ、使用目的を具体化していきます。
この段階で、造形方式(FDM、SLA、SLSなど)や使用する材料を考慮することが重要です。
設計時には、サポート材の必要性や、造形時の安定性を考慮することも求められるでしょう。
例えば、オーバーハングが多いデザインはサポートが必要になり、後処理の手間が増える可能性があります。用途に応じた設計を心掛けることで、スムーズな造形につながるでしょう。
ステップ②3Dモデリングの基本と注意点
アイデアが固まったら、次に3Dモデリングを行います。
3Dモデリングは、3DCADや3DCGソフトを使用してデータを作成する工程です。機械部品にはFusionやSolidWorks、デザイン性の高い造形物にはBlenderやZBrushが適しています。
モデリング時には、造形方式に適した形状を考慮することが重要です。例えば、FDM方式ではオーバーハングが多いとサポート材が必要になり、表面が荒れる可能性があります。また、壁の厚みが薄すぎると強度が不足し、造形に失敗することもあるでしょう。
さらに、データのエラーチェックも欠かせません。面が閉じていない非多様体形状や、法線の向きが誤っていると、プリンターが正しく造形できないことがあります。
ステップ③スライサー設定とデータ最適化
3Dモデリングが完了したら、スライサーソフトを使ってデータを3Dプリンター用に変換します。
スライサーソフトはSTLやOBJ形式のデータを読み込み、積層ごとの指示を出すGコードを生成します。CURAやPrusaSlicer、ChiTuBoxなどが代表的なスライサーソフトです。
スライサー設定では、積層ピッチ(レイヤーの厚み)、充填率(インフィル)、造形速度などを調整しましょう。積層ピッチを細かくすると表面が滑らかになりますが、造形時間が長くなります。充填率を調整することで、強度と材料の節約を両立できます。
また、モデルの配置や向きを最適化することで、サポート材の削減や造形の安定性向上が可能です。
ステップ④ 造形とサポート除去・仕上げ
スライサー設定が完了したら、3Dプリンターで造形を行います。
造形中は、フィラメント詰まりや印刷ミスが発生しないよう注意し、長時間のプリントでは途中経過を確認することが重要です。
造形後は、後処理を行います。FDM方式では、不要なサポート材をカッターやニッパーで慎重に除去し、表面をやすりで整えましょう。SLA方式では、造形物をIPA(イソプロピルアルコール)で洗浄し、UVライトで硬化させる必要があります。
最終的な仕上げとして、塗装や研磨を行うことで、より高品質な造形物に仕上げましょう。
3Dプリンター造形における設計のためのソフトウェア選び
3Dプリンターで高品質な造形を行うためには、適切なソフトウェアを選ぶことが重要です。
設計には大きく分けて、3DCAD(設計向け)と3DCG(デザイン向け)の2種類のソフトがあり、それぞれ用途によって最適なものが異なります。さらに、作成した3Dデータを実際にプリント可能な形式に変換するために、スライサーソフトの選定も欠かせません。
ここでは、3Dプリンターでの設計向けのおすすめ3DCADソフトと3DCGソフトを紹介し、最後にスライサーソフトとの連携方法について見ていきましょう
おすすめ3DCADソフト
3DCADは、精密な設計が求められる部品や機械製品のモデリングに適したソフトウェアです。寸法を正確に指定できるため、機械工学や建築分野で多く利用されています。3DCADソフトを選ぶ際は、操作性、機能、価格などを考慮することが重要です。
以下の表に、おすすめの3DCADソフト一覧をまとめました。
ソフト名 | 特徴 | 対応OS |
Fusion | クラウド対応、初心者向け | Windows, Mac |
SolidWorks | 業界標準の高機能CAD | Windows |
Tinkercad | 完全無料、初心者向け | ブラウザ(Windows, Mac, Linux) |
DesignSpark Mechanical | 無料で高機能、パーツライブラリ充実 | Windows |
Creo | 高精度なエンジニアリング向け | Windows |
Fusionはクラウド機能を備え、初心者から上級者まで幅広く対応しています。
Fusionを学ぶなら、以下のようなセミナーを利用すると、基礎から応用的なスキルまで、短期間で確実に習得できるのでおすすめです。
セミナー名 Autodesk Fusionセミナー講習 運営元 ProSkilll(プロスキル) 価格(税込) 41,800円〜 開催期間 2日間 受講形式 対面(東京・名古屋・大阪)・ライブウェビナー・eラーニング
おすすめ3DCGソフト
3DCGは、自由なデザインが求められるフィギュアやアート作品のモデリングに適しています。3DCADと異なり、曲線や細かいディテールの表現が得意で、クリエイティブなデザインに向いています。
以下の表に、おすすめの3DCGソフト一覧をまとめました。
ソフト名 | 特徴 | 対応OS |
Blender | オープンソース、無料で高機能 | Windows, Mac, Linux |
ZBrush | 高精細なスカルプト機能 | Windows, Mac |
MeshMixer | 3Dプリント向けの簡単な編集が可能 | Windows, Mac |
Metasequoia | 軽量で日本語対応 | Windows, Mac |
自分の目的に合わせて、最適なソフトを選びましょう。
Blenderを学ぶ際は、以下のセミナーを活用することで、基礎から応用までのスキルを効率よく習得できるため、短期間でのスキル向上におすすめです。
セミナー名 Blender基礎セミナー 運営元 ProSkilll(プロスキル) 価格(税込) 27,500円〜 開催期間 2日間 受講形式 対面(東京・名古屋・大阪)・ライブウェビナー・eラーニング
スライサーソフトの連携
3Dモデルを作成した後は、スライサーソフトを使用して3Dプリンターで出力可能なデータに変換する必要があります。スライサーソフトは、STLやOBJ形式のデータを読み込み、Gコードという形式に変換し、3Dプリンターの動作を制御します。
以下の表に、おすすめのスライサーソフト一覧をまとめました。
ソフト名 | 特徴 | 対応OS |
CURA | 無料で機能豊富、Ultimaker対応 | Windows, Mac, Linux |
PrusaSlicer | Prusa製プリンター向け、高精度 | Windows, Mac, Linux |
Slic3r | オープンソース、多機能 | Windows, Mac, Linux |
ChiTuBox | SLA/DLP方式向け、高機能 | Windows, Mac, Linux |
スライサーソフトを適切に選び、3Dモデルと連携することで、精度の高い造形を実現できます。各ソフトには細かい設定項目があるため、プリンターの特性に合わせて調整しながら活用するとよいでしょう。
その他の3Dプリンターのソフトウェアを知りたい方は、下記をご覧ください。
3Dプリンターでの設計のテクニックとコツ
3Dプリンターで高品質な造形を行うには、強度の確保、サポート構造の最適化、トポロジー最適化といった設計テクニックが重要です。テクニックを適切に行うことで、造形の成功率が向上し、材料の無駄を減らすことができます。
ここでは、3つのポイントを見ていきましょう。
3Dプリンターでの設計で強度を確保する方法
3Dプリンターで作成したモデルの強度は、造形方向、形状、内部構造、材料選びによって大きく左右されます。
積層方向に対し応力がかかると破損しやすいため、応力の方向を考慮した設計が重要です。フィレット(角の丸み)を設けることで応力を分散させ、耐久性を向上させることができます。
内部構造では、充填率(インフィル)を適切に設定することがポイントです。一般的には20~30%で十分ですが、耐荷重が必要な場合は50%以上やハニカム構造を採用すると強度が増します。
さらに、PLAよりも耐久性の高いABSやPETGなど、用途に適した材料を選ぶことも重要です。
3Dプリンターの材料について知りたい方は、下記をご覧ください。
3Dプリンターでの設計におけるサポート構造の最適化
サポート材はオーバーハング部分の造形を支える役割を果たしますが、多すぎると材料の無駄や後処理の負担が増えます。
最適化の第一歩は、モデルの向きを調整することです。45度以下の傾斜で配置すれば、サポートなしでも造形が可能になる場合が多いです。
スライサーソフトの設定を活用するのも有効でしょう。
CURAやPrusaSlicerでは、ツリースポーツを使用することで接触面積を最小限に抑え、サポート除去を容易にできます。さらに、水溶性サポート材を利用すると、取り外しが簡単になり、表面仕上げも向上するでしょう。
3Dプリンターでの設計のためのトポロジー最適化
トポロジー最適化は、必要な強度を維持しながら無駄な材料を削減する設計手法です。FusionやSolidWorksなどのソフトを活用し、荷重や応力のかかる部分を解析しながら最適な形状を生成します。
この手法により、重量を減らしつつ耐久性を向上させることが可能になるでしょう。
特に3Dプリンターでは、格子構造や流線形デザインを取り入れることで、従来の製造方法では実現しにくい高効率な設計が可能です。航空宇宙や自動車業界では軽量化と強度向上のために広く活用されています。
3Dプリンターの設計を成功させよう
3Dプリンター造形における設計は、単にデジタルデータを作成するだけでなく、強度や精度、造形の効率を考慮することで、より実用的で高品質な出力を実現できます。アイデアスケッチからモデリング、スライサー設定、造形後の仕上げまで、各工程を丁寧に行うことで、失敗を減らし、理想的な造形が可能になるでしょう
また、用途に応じたソフトウェアの選択や、強度確保・サポート最適化・トポロジー最適化といった設計テクニックを活用することで、造形の精度や耐久性を向上させることができます。
3Dプリンターでの設計は、ものづくりの可能性を広げる革新的な技術です。基本を押さえながら実践を重ね、自分のアイデアを形にする楽しさを存分に味わいましょう。