3Dプリンターの性能を最大限に引き出すためには、適切な原料選びが欠かせません。
FDM方式向けのPLAやABS、光造形(SLA/DLP)向けのレジン、粉末焼結(SLS/MJF)で使用するナイロンや金属粉末など、用途によって最適な素材は異なります。
本記事では、3Dプリンター原料の種類と特徴、用途別の選び方を詳しく解説します。最適な材料を選び、理想の作品を作りましょう。
3Dプリンターの原料とは?
3Dプリンターの原料は、造形の精度や強度、用途を左右する重要な要素です。樹脂や金属、セラミックなど、さまざまな素材があり、それぞれ異なる特性を持っています。
家庭用プリンターでよく使われるPLAやABSは加工しやすく、初心者向けの材料として人気があります。一方、産業用途ではナイロンやカーボンファイバー、チタンなどの高強度な素材が活用されるでしょう。
また、近年は生分解性のあるバイオプラスチックや、リサイクル可能な素材も登場し、環境への配慮も進んでいます。
どの原料を選ぶかによって、仕上がりや耐久性が大きく変わるため、用途に応じた適切な選択が求められているのです。
詳細は、次章の「【造形方式別】3Dプリンターに使える原料種類と特徴」で紹介しています。
【造形方式別】3Dプリンターに使える原料種類と特徴
3Dプリンターで使用される原料は、大きく分けて熱溶解積層方式(FDM)向けのフィラメント、光硬化樹脂(SLA/DLP)向けのレジン、粉末焼結方式(SLS/MJF)向けの粉末材料の3種類があります。
以下の表に、各方式ごとの代表的な材料と特徴をまとめました。
造形方式 | 主な原料 | 特徴 | 主な用途 |
FDM(熱溶解積層方式) | PLA | 扱いやすく、環境に優しい | モデル・試作 |
ABS | 強度・耐熱性が高い | 機能試作・製品製造 | |
PETG | 透明性と耐衝撃性がある | 容器・装飾品 | |
PC | 高耐熱・高強度 | 工業部品 | |
SLA/DLP(光硬化樹脂方式) | 標準レジン | 高精細な造形が可能 | フィギュア・試作 |
ABSライクレジン | 強度と耐衝撃性が高い | 機能試作 | |
耐熱レジン | 高温環境で使用可能 | 工業用パーツ | |
SLS/MJF(粉末焼結方式) | ナイロン12 | 高強度・耐摩耗性がある | 機械部品 |
金属粉末 | 非常に高い耐久性を持つ | 航空宇宙・医療 | |
石膏パウダー | フルカラー造形が可能 | 建築模型・装飾品 |
ここでは、それぞれの材料の詳細な特徴を見ていきましょう。
熱溶解積層方式(FDM)向けフィラメント
熱溶解積層方式(FDM)では、フィラメントと呼ばれる樹脂素材を高温で溶かしながら積層して造形します。手
軽に扱えることから、家庭用から業務用まで幅広く使用されています。フィラメントの種類によって、強度や耐熱性、柔軟性などの特性が異なるため、目的に応じた選択が重要です。
ここでは、代表的なフィラメントの特徴を見ていきましょう
「PLA(ポリ乳酸)」初心者向けで扱いやすい
PLAは、植物由来の生分解性プラスチックで、初心者にも扱いやすい素材です。低温で造形できるため、反りや収縮が少なく、安定したプリントが可能です。
特徴は下記の通りです。
- 造形時の反りが少なく、高精度な仕上がり
- 環境に優しく、臭いが少ない
- 耐熱性が低く、50度以上で変形する可能性がある
ただし、耐熱性が低く、高温環境では変形しやすい点に注意が必要です。
PLAなど柔らかい原料について知りたい方は、下記をご覧ください。
「ABS」強度と加工性に優れる
ABSは、耐衝撃性や耐熱性に優れ、強度のあるパーツを作るのに適した素材です。サンドペーパーによる研磨や塗装が可能で、後加工のしやすさも特徴です。
ただし、造形時に反りが発生しやすく、プリンターの造形テーブルを加熱する必要があります。
特徴は下記の通りです。
- 強度が高く、機械部品やケース類に適している
- 研磨や塗装などの後加工がしやすい
- 造形時に反りやすく、密閉式プリンターが推奨される
耐久性が求められる試作品や実用部品の製造に広く使われています。
「ASA」屋外用途に最適
ASAはABSの特性を引き継ぎながら、紫外線や天候による劣化を防ぐ耐候性を強化した素材です。屋外で使用するパーツに適しており、色あせや割れが起こりにくいのが特徴です。造形の安定性も高く、ABSよりも反りが少ないため扱いやすいです。
特徴は下記の通りです。
- 紫外線に強く、屋外でも長期間使用可能
- ABSと同様に耐衝撃性が高く、頑丈な造形ができる
- 造形時の反りが少なく、安定したプリントが可能
看板や屋外装置の部品、スポーツ用品などの用途に適しています。
「PETG」透明性と耐衝撃性を両立
PETGはPET(ペットボトルの材料)を改良した素材で、透明性と高い耐衝撃性を兼ね備えています。PLAの扱いやすさとABSの強度を併せ持ち、造形中の反りが少ないため、安定したプリントが可能です。
特徴は下記の通りです。
- 透明度が高く、美しい仕上がりが可能
- 耐衝撃性があり、強度が求められるパーツに適している
- 吸湿しやすいため、保管には注意が必要
耐久性が求められるケースや容器、ディスプレイ製品などの用途におすすめです。
光硬化樹脂(SLA/DLP)向けレジン
光硬化樹脂は、SLAやDLP方式の3Dプリンターで使用される液体樹脂です。紫外線や特定の波長の光を照射することで硬化し、精密で滑らかな造形が可能になります。
ここでは、代表的なレジンの種類と特徴を紹介します。
「標準レジン」一般的な試作向け
標準レジンは、光造形方式の3Dプリンターで最も一般的に使用される素材です。造形精度が高く、滑らかな表面を持つため、デザイン試作やフィギュア、模型の制作に適しています。
特徴は下記の通りです。
- 造形精度が高く、細かいディテールの再現が可能
- 滑らかな表面仕上げで後加工がしやすい
- 強度や耐熱性が低く、長期使用には向かない
ただし、強度や耐熱性はあまり高くないため、負荷のかかる用途には不向きです。
「ABSライクレジン」強度と耐衝撃性を求める場合に最適
ABSライクレジンは、FDM方式のABSフィラメントと似た特性を持つ光硬化樹脂です。標準レジンに比べて強度や耐衝撃性が向上しており、機能試作や負荷のかかる部品の製造に適しています。
特徴は下記の通りです。
- 標準レジンよりも強度と耐衝撃性が高い
- 後加工しやすく、機能試作や小型部品に適している
- 高温には弱く、長期間の屋外使用には向かない
ただし、完全なABSほどの耐久性はなく、高温環境では変形しやすい点に注意が必要です。
「耐熱レジン」高温環境での使用に適した素材
耐熱レジンは、100度以上の高温に耐えられる特性を持ち、熱にさらされる環境で使用するパーツに適しています。電子機器の筐体やエンジン部品の試作など、耐熱性が求められる用途に最適です。
特徴は下記の通りです。
- 高温環境でも変形しにくく、100度以上の耐熱性を持つ
- 精密な造形が可能で、機能試作にも適している
- 衝撃には弱く、耐久性の高い部品には不向き
電子部品の試作や耐熱性が求められる機械部品の製造に適しています。
粉末原料(SLS/MJF)
粉末焼結方式(SLS)やマルチジェットフュージョン(MJF)方式では、細かい粉末状の原料を使用し、レーザーや熱エネルギーを利用して焼結・融合させることで造形を行います。この方式ではサポート材が不要で、複雑な形状の造形が可能です。
ここでは、代表的な粉末材料の特徴を見ていきましょう。
「ナイロン12・ナイロン11・PA6」高強度・耐摩耗性が特徴
ナイロン系の粉末材料は、機械的強度や耐摩耗性に優れ、工業用パーツや耐久性が求められる製品に適しています。ナイロン12は高い剛性と耐薬品性を持ち、ナイロン11は柔軟性があり、ナイロン6は強度と耐熱性に優れています。ただし、吸湿性があるため、保管環境には注意が必要です。
特徴は下記の通りです。
- 高い機械的強度を持ち、耐摩耗性に優れる
- 造形後の表面処理がしやすく、最終製品にも使用可能
- 吸湿しやすいため、乾燥状態での保管が推奨される
耐久性が求められるギアやベアリング、機械部品などに広く利用されています。
「金属粉末(SUS, チタン, アルミ, 銅)」工業・航空宇宙分野で活躍
金属粉末を使用した3Dプリントは、高強度かつ耐熱性に優れた部品を製造できるため、航空宇宙や医療、工業分野で広く活用されています。ステンレス(SUS)は耐食性が高く、チタンは軽量かつ強度に優れ、アルミは熱伝導性が高く、銅は電気伝導性が特徴です。
特徴は下記の通りです。
- 高強度・高耐久で、機械部品や航空部品に適している
- 熱・電気伝導性に優れ、特殊な用途にも使用可能
- 造形コストが高く、高精度な設備が必要
ただし、造形には高温が必要であり、コストが高めです。
「石膏パウダー」フルカラー造形が可能
石膏パウダーは、インクジェット方式を組み合わせることでフルカラー造形が可能な材料です。彩色や表面の質感表現に優れ、建築模型やフィギュア、デザイン試作などの用途に適しています。
特徴は下記の通りです。
- フルカラー造形が可能で、細かい色彩表現ができる
- 造形後の塗装や仕上げがしやすい
- 耐久性が低く、強い衝撃に弱い
建築模型やプレゼンテーション用の試作品、アート作品など、視覚的な要素を重視する用途に適しています。
3Dプリンター原料の料金一覧
3Dプリンターで使用される原料の価格は、素材の種類によって異なります。
以下の表に、主要な3Dプリンター素材の1kgあたりの価格相場をまとめました。
素材名 | 価格相場(1kgあたり) |
PLA | 約2,000円~3,000円 |
ABS | 約2,000円~3,500円 |
PETG | 約3,000円~4,000円 |
PC | 約8,000円~12,000円 |
標準レジン | 約6,000円~10,000円 |
ABSライクレジン | 約8,000円~12,000円 |
耐熱レジン | 約12,000円~18,000円 |
ナイロン12 | 約6,000円~9,000円 |
金属粉末 | 約20,000円~100,000円 |
石膏パウダー | 約6,000円~8,000円 |
素材の価格は、メーカーや品質によって異なるため、目的に合ったものを選ぶことが重要です。
特に、試作品や一般的な造形には低価格のPLAやABSが適している一方で、工業用途や高耐久性を求める場合にはナイロンやPC、金属粉末が選ばれることが多くなります。
【用途別】3Dプリンター造形時の原料選定ガイド
3Dプリンターの原料は、造形方式だけでなく、用途に応じた選択が重要です。
試作品やモックアップには、造形しやすくコストを抑えられる素材が適しており、工業製品には強度や耐久性が求められます。医療・歯科用途では、生体適合性があり精密な造形が可能な素材が必要となり、ジュエリーやデザイン用途では、美しい仕上がりと加工のしやすさが求められるでしょう。
試作・モックアップ向けのおすすめ原料
試作やモックアップの目的は、デザインの確認や寸法のチェックが中心となるため、扱いやすく、コストパフォーマンスに優れた材料が適しています。
FDM方式ではPLAが最も一般的で、反りが少なく造形が安定しやすいため、初心者でも扱いやすい点が魅力です。光造形(SLA/DLP)では、標準レジンが精細な造形に適しており、デザイン試作や模型の制作に向いています。
、より強度が必要な場合は、ABSやPETGなどの耐久性のあるフィラメントが選択肢に入るでしょう。
工業製品・機能部品向けのおすすめ原料
工業製品や機能部品の製造には、強度や耐久性が求められるため、高性能な材料を選ぶ必要があります。
FDM方式ではABSやPCが適しており、耐熱性や耐衝撃性に優れているため、機械部品やケース類の製造に向いています。SLS/MJF方式では、ナイロン12やナイロン11が広く使用され、高い耐摩耗性と剛性を持つため、最終製品としても活用できるでしょう。
医療・歯科用途に適した原料
医療や歯科分野では、人体に安全な素材であることが必須条件となるため、生体適合性のある材料が求められます。
SLA/DLP方式では、歯科用レジンや生体適合レジンが使用され、義歯や歯科モデルの製作に適しています。また、SLS方式ではナイロンが使用され、患者に合わせたカスタムインプラントや義肢の製造に活用されています。
ジュエリー・デザイン用途に適した原料
ジュエリーやデザイン用途では、細かいディテールの再現性や、最終的な加工のしやすさが重要です。
SLA/DLP方式では、高精細な造形が可能な鋳造用レジンが一般的で、ワックス鋳造と組み合わせて金属ジュエリーの製作に活用されます。金属3Dプリントでは、シルバーやゴールドの粉末を使用し、直接ジュエリーを造形することも可能です。
デザイン性を重視しながら、仕上げのしやすさや加工性も考慮することが重要です。
3Dプリンターでものづくりしたいけれどアイディアがまとまらない方は、下記をご覧ください。
3Dプリンターで作品を作るなら最適な原料で
3Dプリンターの原料は、造形方式や用途に応じてさまざまな種類があり、それぞれ異なる特性を持っています。試作やモックアップには扱いやすく低コストな材料、工業製品には強度や耐久性に優れた材料、医療や歯科分野では生体適合性のある材料、ジュエリーやデザイン用途には精密な造形が可能な材料が適しています。
3Dプリンターの性能を最大限に活かすためにも、用途に応じた最適な素材を選び、理想の作品を実現しましょう。
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