3Dプリンターの用途は製造業に留まらず、あらゆる業種で様々な活用が行われています。しかし、業種によっては3Dプリンターを活用した事例がなく「どのように活用したらいいかわからない」と悩む方もいるのではないでしょうか。
そこで、今回紹介するのは大手運送業「ヤマト運輸」が3Dプリンターを活用したサービスです。
本記事では、ヤマト運輸が3Dプリンターを活用して展開するサービス事例、顧客に提供する価値などを詳しく解説していきます。自社の業種でも3Dプリンターを活用して新規事業をスタートさせるヒントになりますので、ぜひ最後までご覧ください。
ヤマト運輸の3Dプリンターを使ったサービスとは?
ヤマト運輸が提供する3Dプリンターを活用したサービスとは、羽田クロノゲートに「3Dプリントセンター」を開設し「3Dプリント・配送サービス」を行うサービスです。
サービスの概要としては、オーダーメイド製品や少量多品種生産が必要な事業者に対して、3Dプリントのデータ作成から造形・配送まで一気通貫で提供するものです。以下の流れでサービスが行われます。
- 回収
3Dプリンター用のデータを取る “型”をヤマトグループが回収 - 3Dデータの作成
回収したデータをYSDに配送、3Dプリントセンターでスキャン・データの作成 - 造形
作成したデータを利用して、造形 - 配送
出力した造形物をヤマト運輸が配送
このサービスはヤマト運輸の全国輸送ネットワークの強みと3Dプリンターを合わせたサービスであり、オーダーメイドで少量多品種の製造が必要な治療用装具、医学模型市場から始まりました。
3Dプリンターの導入メリット・導入事例について詳しく知りたい方は以下の記事を参照ください。
ヤマト運輸の3Dプリンターを活用したマウスピース製造とは?
ヤマト運輸が提供する3Dプリンターを活用したサービスとは、マウスピース歯科矯正サービス「hanaravi(ハナラビ)」を提供する株式会社DRIPSと提携し、歯科矯正用マウスピースの製造・配送を提供するサービスです。
このサービスをスタートした背景と目的について解説します。
背景
歯科矯正はこれまでワイヤー矯正が一般的でしたが、患者の歯列状態によってはマウスピース矯正で十分補えるケースも多くあります。マウスピースはワイヤーに比べると、コストを安価に抑えられるだけでなく、目立ちにくいことから希望する人は増加しています。
マウスピース矯正のニーズが増加傾向にあることにヤマト運輸は着目します。
しかし、マウスピース矯正は1~2週間での交換が必須になり、1人あたり20~30段階の異なる歯型模型が必要です。また、マウスピースは1人の患者によって形状が異なることから大量生産は難しいのが現状です。
そのため、患者の歯型に合わせてすぐにマウスピースのプリントが可能な3Dプリンターを使用して、ヤマト運輸は株式会社DRIPSとともに、本サービスをスタートしました。
目的
マウスピース矯正において、治療期間を短縮するためには歯の動きに合わせてマウスピースを交換することが求められます。しかし、忙しい方や近所にクリニックがない方はマウスピースを交換するために何度も通うことは難しいのです。
そこで、本サービスを希望する多くの方に提供するため、大量生産に近い生産性を保ちつつ、個々の顧客ニーズに合う商品を製造・配送するのを目的として始まりました。
これまで3Dプリンターでマウスピースを製造する事例はありますが、患者の歯列データをヤマト運輸の3Dプリントセンターに送り、ヤマト運輸の全国輸送ネットワークを活かして製造・造形したマウスピースを提供する試みは国内初です。
3Dプリンターで歯科矯正器具を作るメリット
3Dプリンターで歯科矯正器具を作るメリットは以下の通りです。
- 時間を短縮できる
- 安価なコストで製造が可能
- 全段階の歯形を出力可能
歯科矯正用マウスピースはこれまで海外の歯科技工所が矯正開始から完了までを一括製造し、輸入するスタイルが基本でした。しかし、歯の動きは環境や動作に合わせて大きく変わり調整が必要になるケースも多くあります。
3Dプリンターで歯科矯正用マウスピースを患者の歯列状態に合わせてすぐに作成できれば、短期間での治療が実現します。またクリニック内でデータの製造ができることから、安価なコストでの製造が可能です。
3Dプリンターで歯科矯正器具を作るデメリット
3Dプリンターで歯科矯正器具を作るデメリットは以下の通りです。
- 大量生産に向いていない
- 歯科技工士に比べると精度は劣る
3Dプリンターの性能向上によって造形の細かい部分まで再現できるようになりましたが、人間の歯列というのは複雑であり100%同じものを再現するのでは容易ではありません。
また、形状によっては3Dプリンターで造形後、歯科技工士が調整を行う必要もあるのです。
医療における3Dプリンター導入については以下の記事でも詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
ヤマト運輸が提供するマウスピースの製造と配送サービスの流れ
引用:ヤマトホールディングス
ヤマト運輸と株式会社DRIPSの本サービスの流れは以下の通りです。
- 歯列矯正悩んでいる患者が来院し、歯型スキャンを行う
- 歯型スキャンデータをヤマト運輸の3Dプリントセンターに送付
- 造形した矯正用マウスピースをクリニックもしくは患者の自宅に届ける
- 2回目以降は遠隔経過診察を行い、2~3を繰り返す
ヤマト運輸は今回のサービスにあたり、送られてくる歯型3Dデータを3Dプリンターの造形に適したデータに自動で補正するツールを開発し、造形の効率化が可能になっています。
また、3Dプリンターによる造形から加工まで全工程を機械で自動化し、国内初のマウスピースのオンデマンド・カスタマイズ生産を実現しています。
ヤマト運輸の3Dプリンターを活用したマウスピースの提供価値
ヤマト運輸とDRIPSが提供する本サービスは、どのような価値が提供されるのでしょうか。以下2つの視点から解説します。
- 患者への提供価値
- 歯科クリニックへの提供価値
患者への提供価値
本サービス最大のメリットは、歯科矯正の治療期間を短縮できる点にあります。矯正というのは、ワイヤーからマウスピースになっても患者にとって煩わしいものであり1日でも早く治療を終えたいものです。
治療期間が長くなることで治療途中での断念が発生する可能性は高まります。この治療期間の短縮を実現するためには、歯列を効率的に動かすことが求められます。
例えば、マウスピースをはめて2週間で交換しなければいけないところ、患者の都合で来店できず3週間後の交換になればその間歯列は効率的に動かすことができず、1週間の期間は無駄なものになります。
しかし、ヤマト運輸の全国輸送ネットワークを活かして短期間でマウスピースを受け取り・交換ができるようになれば、無駄な期間をなくすことができるのです。
歯科クリニックへの提供価値
歯科クリニックは患者の治療期間が短縮することで、患者を受け入れる人数が多くなります。
また、本サービスは2回目以降の診察を遠隔経過診察としているため、患者は来院をする必要がなくなります。患者の待ち時間が一切なくなるためオペレーションの効率化が実現するのです。
また、先述した通りこれまでのマウスピース製造は海外での一括製造ですが、患者の状態によってはマウスピースの作り直しが発生、作成したマウスピースは廃棄となっていました。その結果、廃棄コストの増加へとつながります。
しかし、オンデマンド製造によってマウスピースの廃棄が発生しないため、クリニックはコスト削減が実現するのです。
ヤマト運輸による3Dプリンターを活用したサービスの今後
ヤマト運輸が描く今後の展望について以下2つの視点で紹介します。
- 歯科矯正の展望
- 3Dプリント・配送サービス
歯科矯正の展望
株式会社DRIPSは今後提携できる歯科医院を増やし、歯科矯正を求める患者の受け入れ人数を増加させていこうと考えています。一方、ヤマト運輸は全国にあるヤマト運輸の主要拠点に順次3Dプリンターを増設し、よりスピーディーに患者のもとへマウスピースを届けるサービスを強化していくと発表しています。
3Dプリントを活用した配送サービスの展望
また、医療現場に留まらずヤマト運輸が持つ全国輸送ネットワークを活かして今後は業界の幅を広げて、2025年度までに「3Dプリント・配送サービス」事業の売上100億円を目指すと公表しました。
3Dプリンターの活用により、今後歯列矯正が手軽かつスピーディーに実現できるようになれば、3Dプリンター業界にも追い風となるでしょう。
ヤマト運輸の3Dプリンター活用に関するよくある質問
ここでは、ヤマト運輸の3Dプリンターを活用した歯科矯正器具に関する質問についてまとめています。
ヤマト運輸がデータを受け取って3Dプリントから患者に配送するまでの期間は?
ヤマト運輸がデータを受け取り、患者にマウスピースを届けるまでの期間はおよそ4日間と言われています。患者の治療段階に応じたマウスピースを定期的に製造・発送することで、効率よく無駄のないサービス提供を実現しています。
3Dプリンターを活用したサービスのヤマト運輸のメリットは?
ヤマト運輸は自社で3Dプリントを行うことで、患者のもとにマウスピースを届ける時間とコストの削減を実現しています。本来であれば、歯科クリニックがマウスピースを製造し、患者のもとに配送するとしてもヤマト運輸が回収して届けなければいけません。
自社で製造から配送までを行えることで、マウスピースを歯科クリニックまで取りに行く必要性はなくなり、配送までのスケージュールを組みやすい点がメリットとして挙げられます。
3Dプリントを活用した配送サービスの特徴とは?
ヤマト運輸が3Dプリントを活用した配送サービスの特徴は、3Dプリンター用のデータを取る “型”をヤマトグループが回収し、自社の3Dプリントセンターで造形を行います。造形を完了した後は、指定の場所へ届けるワンストップサービスです。
最新鋭の3Dプリンターに加えて、ヤマト運輸のスピード輸送ネットワークを組み合わせることで、「スピード」・「高品質」・「セキュアなデータ管理」を実現しています。
ヤマト運輸の3Dプリンターサービスについてまとめ
本記事では、ヤマト運輸が3Dプリンターを活用して行うサービスについて紹介しました。3Dプリンターは製造業に活用されていると思う方も多くいますが、あらゆる業界で活用の幅は広がっています。
今後、運送業者であるヤマト運輸が3Dプリンターを活用して事業を成長させていけば、国内の3Dプリンター市場は大きくなっていくでしょう。
本記事を参考に3Dプリンターを活用した事業を検討し、挑戦してみてはいかがでしょうか。また、3Dプリンターの購入を検討している方は3Dプリンター専門ショップ「Fabmart」のご利用がおすすめです。3Dプリンター本体だけでなく、スキャナーや素材など造形に必要なものを揃えることが可能です。