3Dプリンターの購入を検討しているものの、高価すぎて手が出せず、諦めていませんか?実は、オープンソースハードウェアのArduinoを使えば、驚くほど安価に、そして自分好みにカスタマイズした3Dプリンターを自作できます。
本記事では、Arduinoと3Dプリンターの基本知識から、必要な部品、組み立て手順、トラブルシューティングまで、初心者でも分かりやすく解説します。
Arduinoと3Dプリンターの基礎知識
3Dプリンターの自作に挑戦する前に、Arduinoと3Dプリンターの役割と関係性を理解しておきましょう。以下で詳しく解説します。
Arduinoとは?
Arduinoは、イタリアで生まれたオープンソースのマイコンボードです。プログラムを書き込むことで、さまざまな電子機器を制御できます。
使いやすさと拡張性が特徴で、専用の開発環境(Arduino IDE)は無料で利用でき、初心者でも簡単にプログラミングを始められます。
世界中の開発者が作成した豊富なライブラリやサンプルコードが公開されており、複雑な制御も容易に実現できます。「シールド」と呼ばれる拡張ボードを組み合わせ、機能を拡張することも可能です。
3Dプリンターの基本構造
3Dプリンターは、3D CADなどのソフトウェアで作成した3次元データをもとに、樹脂や金属などの材料を一層ずつ積み重ねて立体物を造形する装置です。
その基本構造は、「材料を供給する部分」「材料を溶かして吐出する部分」「造形物を置く台」「各部を動かす機構」「全体を制御する部分」から構成されています。
材料を溶かし吐出する部分はエクストルーダーとホットエンドと呼ばれ、フィラメントを高温で溶かしノズルから押し出します。各部を動かす機構は主にステッピングモーターで制御され、ノズルを正確に移動させます。
これら全体を制御するのがArduinoなどの制御ボードです。
3Dプリンター活用方法など、もっと詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてください。
Arduinoと3Dプリンターの関係
Arduinoは3Dプリンターの頭脳として、3Dモデルのデータを解析し、各ステッピングモーターの動きを制御します。また、ヒートベッドやホットエンドの温度制御、センサーからの情報を読み取りフィードバック制御を行うのもArduinoの役割です。
Arduinoはそのオープンソース性と拡張性から、3Dプリンターの制御ボードとして広く採用されています。特に、RAMPSなどの専用シールドと組み合わせることで、3Dプリンターに必要な機能を簡単に実装できます。
Arduinoを使った3Dプリンターの自作メリット
Arduinoを使って3Dプリンターを自作することは、3つのメリットがあります。
- コスト削減につながる
- 3Dプリンターへの理解が深まる
- カスタマイズ性が高い
ここでは、それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。
コスト削減につながる
Arduinoを使った3Dプリンターの自作の最大のメリットは、コスト削減です。市販品は数万円以上しますが、自作すればその費用を大幅に抑えられます。
Arduinoやステッピングモーターなどの電子部品は安価に入手でき、フレームにリサイクル素材を活用すればさらなるコストダウンも可能です。
3Dプリンターへの理解が深まる
自作の過程で、3Dプリンターの仕組みや動作原理を深く理解できます。各部品の役割や配線の意味、ファームウェアの設定などを確認しながら組み立てることで、実践的に学べるのです。
自作の過程で深まった知識は、トラブルが発生した際やカスタマイズする際に役立ちます。
カスタマイズ性が高い
Arduinoを使った自作の3Dプリンターなら、自分のニーズに合わせて自由にカスタマイズできます。市販の3Dプリンターでは、フレームの大きさや使用できるフィラメントの種類、搭載されている機能などが限られている場合があります。
しかし、自作であれば、造形サイズを大きくしたり、特殊な素材に対応したエクストルーダーを搭載したり、デュアルエクストルーダーにして複数色や異素材の造形を可能にしたりと、自分の作りたいものに合わせて設計できるのです。
Arduinoで3Dプリンターを自作するための必要な部品
Arduinoで3Dプリンターを自作するには、さまざまな部品が必要です。ここでは、主要な電子部品や機構部品について解説します。
部品名 | 説明 |
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Arduinoボード |
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RAMPSシールド |
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ステッピングモーター |
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エクストルーダーとホットエンド |
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ヒートベッド |
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フレームと構造部品 |
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Arduinoボード
3Dプリンター制御には、「Arduino Mega 2560」がおすすめです。多くの入出力ピンとメモリ容量を持ち、さまざまな部品を制御する必要がある3Dプリンターに適しています。RAMPSシールドとの互換性にも優れいています。
RAMPSシールド
引用:Amazon
RAMPSは、Arduino Megaに重ねて使う拡張ボードで、各種電子部品を簡単に接続できます。
ステッピングモータードライバー、ヒートベッド、エンドストップなどのソケットや端子を備え、多くの自作3Dプリンターで採用されています。RAMPS1.4などが有名です。
引用:Amazon
ステッピングモーターは、パルス信号で正確な角度で回転を制御できるモーターです。3Dプリンターでは、主にNEMA17規格のものが使用されます。
必要な個数は、3Dプリンターの構成によって異なりますが、一般的にはX軸、Y軸、Z軸、エクストルーダーに各1個の計4個です。
エクストルーダーとホットエンド
引用:Amazon
エクストルーダーはフィラメントをホットエンドに送り出す装置で、ホットエンドはフィラメントを溶融しノズルから押し出す役割があります。この2つは、3Dプリンターの造形品質を左右する重要な部品です。
エクストルーダーには、フィラメントを直接送り出すダイレクト式と、ボーデンチューブを介して送り出すボーデン式があります。ホットエンドは、使用するフィラメントの融点に対応したものを選ぶ必要があります。
ヒートベッド
引用:Amazon
ヒートベッドは造形物を乗せる台を加熱する装置です。造形物の反りや剥がれを防ぎ、安定した造形を実現します。特にABS樹脂などの反りやすい素材を使用する場合に必須です。温度センサー(サーミスタ)を併用して正確な温度制御を行います。
フレームと構造部品
3Dプリンターのフレームは、全体の構造を支える骨格となる部分です。フレームの剛性は、造形精度に大きく影響するため、しっかりとしたものを選ぶことが重要です。
素材としては、アルミフレームやアクリル板、木材などが使われます。また、X軸、Y軸、Z軸の動きをスムーズにするためのリニアガイドやベアリング、ベルト、ネジなどの構造部品も必要です。
Arduino 3Dプリンターの組み立て手順
ここでは、Arduinoを使った3Dプリンターの組み立て手順を、ステップごとに詳しく解説していきます。
- フレームの組み立て
- 電子部品の取り付け
- 配線と接続
- ファームウェアのインストール
- キャリブレーションとテスト印刷
フレームの組み立て
まずは、3Dプリンターの土台となるフレームを組み立てます。フレームは、3Dプリンターの精度や安定性に大きく影響するため、以下の流れを参考に正確に組み立てることが重要です。
1.部品の確認
フレームを構成する部品が全て揃っているか確認します。
2.説明書・図面の確認
使用するフレームキットの説明書や図面をよく読み、組み立て手順を理解します。
3.仮組み
ネジを完全に締め付けず、まずは仮組みを行います。これにより、全体のバランスを確認し、必要に応じて調整することができます。
4.本締め
仮組みで問題がなければ、各部のネジを本締めし、フレームをしっかりと固定します。直角や平行が出ているか、水準器などを使って確認しましょう。
5.補強
必要に応じて、フレームを補強します。フレームの歪みは、造形品質に悪影響を及ぼすため、慎重に作業しましょう。
電子部品の取り付け
フレームの組み立てが完了したら、次にArduinoボードやステッピングモーターなどの電子部品を取り付けていきます。
ArduinoとRAMPSの取り付け
ArduinoボードをRAMPSシールドに装着し、フレームの適切な位置に固定します。
1.ステッピングモーターの取り付け
X軸、Y軸、Z軸、エクストルーダーそれぞれの場所に、ステッピングモーターを取り付けます。取り付け位置や向きを間違えないように注意してください。
2.ヒートベッドの設置
ヒートベッドをフレームのベッド部分に設置します。水平に設置されているか確認しましょう。
3.ホットエンド・エクストルーダーの設置
ホットエンドとエクストルーダーを組み合わせ、それをキャリッジ(X軸)に取り付けます。
4.リミットスイッチ(エンドストップ)の取り付け
各軸の原点を検出するリミットスイッチを取り付けます。各部品は、振動などで外れないようにしっかりと固定しましょう。
配線と接続
電子部品の取り付けが終わったら、次は配線作業です。
1.配線図の確認
RAMPSの配線図を確認し、どの部品をどこに接続するかを理解します。
2.ステッピングモーターの配線
各ステッピングモーターの配線を、RAMPSの対応するドライバソケットに接続します。
3.ホットエンド、ヒートベッド、サーミスターの配線
ホットエンド、ヒートベッド、温度センサー(サーミスタ)の配線を、RAMPSの対応する端子に接続します。
4.リミットスイッチの配線
各軸のリミットスイッチの配線を、RAMPSの対応する端子に接続します。
5.電源の接続
電源ユニットからの配線をRAMPSに接続します。
配線は、ショートや断線がないように、丁寧に行いましょう。また、配線図をよく確認し、接続ミスがないように注意してください。
ファームウェアのインストール
配線が完了したら、次はArduinoボードにファームウェアをインストールします。ファームウェアは、3Dプリンターを制御するためのソフトウェアです。
1.Arduino IDEのインストール
Arduinoの公式サイトから、Arduino IDEをダウンロードし、インストールします。
2.ファームウェアのダウンロード
3Dプリンター用のファームウェア(Marlinなど)をダウンロードします。
3.ファームウェアの設定
ダウンロードしたファームウェアの設定ファイル(Configuration.hなど)を、自分の3Dプリンターに合わせて編集します。たとえば、モーターのステップ数、ベッドのサイズ、リミットスイッチの種類などを設定します。
4.Arduinoボードへの書き込み
Arduino IDEを使って、設定したファームウェアをArduinoボードに書き込みます。ファームウェアの設定は、3Dプリンターの動作に大きく影響するため、慎重に行いましょう。
キャリブレーションとテスト印刷
ファームウェアのインストールが完了したら、最後にキャリブレーションとテスト印刷を行います。
1.ベッドの水平調整
ヒートベッドが水平になるように調整します。
2.Z軸の高さ調整
ノズルとベッドの間隔を適切に調整します。
3.エクストルーダーのキャリブレーション
適切な量のフィラメントが押し出されるように、エクストルーダーのステップ数を調整します。
4.テスト印刷
テスト用の3Dモデルを印刷し、動作確認と調整を行います。キャリブレーションをしっかり行うことで、印刷品質が向上します。テスト印刷で問題が見つかった場合は、設定を見直して再度調整を行いましょう。
これらの手順を完了すれば、自作3Dプリンターは完成です。
Arduinoで自作した3Dプリンターの調整とトラブルシューティング
自作した3Dプリンターの性能を最大限に引き出すためには、適切な調整と定期的なメンテナンスが不可欠です。ここでは、Arduinoで3Dプリンターを自作した後のポイントを紹介します。
印刷品質を向上させる方法
印刷品質向上には、ハードとソフト両面の調整が必要です。具体的には、ベッドの水平調整、ノズルとベッドの間隔調整が重要です。また、スライサーソフトの設定も印刷品質に大きく影響します。
印刷温度、速度、リトラクションなどの設定を、使用するフィラメントや造形物に合わせて最適化しましょう。
一般的な問題と解決策
自作3Dプリンターでよく発生する問題として、「一層目の定着不良」「糸引き」「造形物の反り」などが挙げられます。一層目の定着不良は、ベッドの水平調整やノズルとベッドの間隔調整、ベッド表面の清掃などで改善できます。
糸引きは、ノズルの温度を下げたり、リトラクションの設定を調整したりすることで軽減できます。造形物の反りは、ヒートベッドの温度を上げる、造形物の周囲にドラフトシールドを設置するなどの対策が有効です。
定期的なメンテナンスの重要性
自作3Dプリンターを長く快適に使うためには、定期的なメンテナンスが欠かせません。ノズルやホットエンドの清掃は、フィラメント詰まりを防ぎ、安定した造形を維持するために重要です。
また、ベルトの張り具合の確認や調整、各部のネジの緩みの確認なども定期的に行いましょう。さらに、リニアガイドやベアリングへの注油など、可動部のメンテナンスも重要です。
定期的に各部の点検・メンテナンスを行うことで、トラブルを未然に防ぎ、3Dプリンターを常に良い状態に保つことができます。
なお、3Dプリンターの使い方などでよくある質問を以下の記事にまとめていますので、参考にしてください。
Arduinoで3Dプリンターを自作する魅力
Arduinoを使った3Dプリンター自作は、低コストで始められ、自分好みにカスタマイズできる点が最大の魅力です。自作の過程で3Dプリンターの仕組みを深く理解でき、ものづくりの楽しさを存分に味わえるでしょう。
自作の3Dプリンターを使えば、ロボット製作やDIYなど、創造の可能性は無限大に広がります。ぜひArduinoを使って世界に一つだけの3Dプリンター作りに挑戦し、創造力を形にする喜びを体験しましょう!
もし、「さすがに3Dプリンターを自作するのは難しいな」と思った人は、Fabmartで販売している3Dプリンターをチェックしてみてください。