「3Dプリンターで柔らかい素材を使いたいけれど、種類が多くどの素材を選べばいいかわからない」という悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。
硬い素材に比べて、柔軟性が求められる製品や部品の作成には、柔らかい素材が最適。しかし、柔らかい素材は複数あり、特徴や用途は異なります。
そこで本記事では、3Dプリンターで使用できる柔らかい素材の特徴やおすすめのフィラメントをご紹介します。また、柔らかい素材を使用するメリットやデメリット、硬い素材を柔らかくする方法など詳しく解説します。
3Dプリンターのフィラメントにおける柔らかい素材一覧
素材名 | 値段 | 特徴 | 用途 |
TPU | 7,000円~/kg |
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TPE | 15,000円~/kg |
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PLAフレックス | 3,000円〜/kg |
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フィラフレックス | 10,000円〜/kg |
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ゴムライクフィラメント | 8,000円~/kg |
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エラストポリマー | 10,000円〜/kg |
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シリコーンライクフィラメント | 12,000円〜/kg |
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TPU
TPUは柔軟性が高く、弾性や耐摩耗性に優れています。靴底や携帯ケースなどの製品に最適で、しなやかな造形が可能です。また、耐油性や耐化学性を備えており、実用性が高い点も魅力。
TPU使用時の注意点
TPUはプリント難易度は高めで、ノズル詰まりや押し出しの不安定さがあります。また、低速での印刷がおすすめであるため、造形時間が長くなる場合もあります。
TPE
TPEはゴムのような柔軟性を持ちながらも熱可塑性があり、衝撃吸収性や耐候性が高い素材です。医療機器やグリップ部分の製造に適しており、滑り止めの性能にも適しています。
TPE使用時の注意点
TPEはプリント時に層と層の間の接合部分が弱くなりやすく、造形物が破損しやすいと言えるでしょう。また、柔らかすぎてフィラメントの送りが安定しないことがあり、プリンターの設定に注意が必要です。
PLAフレックス
PLAフレックスは、柔軟性とPLAのプリントしやすさを兼ね備えた素材で、初心者にも扱いやすいのが特徴です。硬さと柔らかさのバランスが取れており、造形物の形状維持も簡単に。また、植物由来で環境にも優しい点が魅力です。
PLAフレックス使用時の注意点
PLAフレックスは耐熱性や耐久性が低く、高温環境下で変形しやすいという欠点があります。また、柔軟性がある分、他のフレックス系フィラメントと比べると弾力性が劣る傾向にあります。
フィラフレックス
フィラフレックスは、非常に高い柔軟性と弾力性を持ち、伸縮性のある部品の造形に適しています。高い層間接着性により、割れにくい強度を実現し、カスタマイズ可能な柔らかい製品を作りやすい素材です。
フィラフレックス使用時の注意点
フィラフレックスはプリント速度が遅くなるため、生産性が高いとは言えません。また、柔らかすぎるためノズルでの押し出しが詰まりやすい傾向にあり、高精度なプリントには技術が必要です。
ゴムライクフィラメント
ゴムライクフィラメントは、ゴムのような柔軟性と弾性を持ち、靴底や防振パーツ、プロトタイプの製造に適しています。高い耐摩耗性や耐久性を兼ね備えており、工業製品から日用品まで幅広い用途に対応可能です。3Dプリンターでも比較的均一に成形しやすく、滑らかな仕上がりが得られます。
ゴムライクフィラメント使用時の注意点
ゴムライクフィラメントは柔軟性が高すぎるため、押し出しが不安定になりやすいという課題もあります。また、高温に弱いことがあり、加熱や長期間の使用で劣化しやすい場合があります。
エラストポリマー
エラストポリマーは、ゴムの弾性とプラスチックの強度を併せ持つ素材で、衝撃吸収性に優れています。軽量で耐薬品性もあり、自動車部品や医療用デバイスなどに活用されています。硬度の調整が容易なため、製品の特性に応じたカスタマイズが可能です。
エラストポリマー使用時の注意点
エラストポリマーは熱に弱い特性があり、高温下では形状が崩れる場合があります。また、柔軟性が高いため、プリンターのノズルやフィーダーで詰まりやすく、安定した印刷を行うのは難しいでしょう。
シリコーンライクフィラメント
シリコーンライクフィラメントは、シリコーンのような柔軟性と耐熱性を持ち、食品容器や医療器具のプロトタイプ作成に適しています。滑らかな質感で柔軟性が高く、防水性や耐薬品性も備えています。形状記憶性があるため、変形後も元の形状に戻る能力が特徴です。
シリコーンライクフィラメント使用時の注意点
シリコーンライクフィラメントは他の柔軟性フィラメントと比べて、プリント速度が遅くなりがちで、生産性が低下することがあります。また、ノズルの詰まりが頻繁に発生することもあるでしょう。
3Dプリンターで使用できる柔らかい素材の特徴
3Dプリンターで使用される柔らかい素材には、柔軟性や弾性を持つ特性がほとんどではあるものの、それぞれに異なる特徴があります。先述した代表的な7つの素材について、強度が高いものやプリントが比較的簡単なものなど様々です。
柔らかい造形物を作成したいということで「どの素材を選んでも同じ」というわけではないことを覚えておきましょう。それぞれに特徴があるため、自身が作成する造形物の条件を考え、条件に見合うものを選択するのが重要です。
3Dプリンターの柔らかい素材に関しては以下の記事で「ゴムフィラメント」について紹介していますので、併せてご覧ください。
3Dプリンターで柔らかい素材を使用するメリット
3Dプリンターで柔らかい素材を使用するメリットは以下の2つです。
- デザインの幅が広がる
- 耐久性の高い製品の作成が可能
- 耐衝撃性の高いものが作れる
メリット①デザインの幅が広がる
3Dプリンターで柔らかい素材を使用することで、デザインの自由度が向上します。従来の硬い素材では再現が難しかった柔軟性や伸縮性を求められる構造も簡単に実現できるため、複雑な形状や曲面を含むデザインが可能です。
以下は柔らかい素材で作成できる一例です。
- 靴底
- 医療用器具(義肢やサポーターなど)
- ロボット部品
- プロテクター
- スポーツ用品のグリップ
例えば、TPUやTPEなどのフィラメントは、ゴムのようにしなやかな性質を持ちながら、高い精度で造形ができるため、靴底やプロテクターなど、人体の動きに適応する製品にも対応可能。また、柔らかい素材はクッション性やグリップ性が求められる用途にも最適で、従来の成形方法では難しい特殊なデザインを試作から製品化まで一貫して行えます。
柔軟性と3Dプリンター特有の複雑な形状を組み合わせることで、従来の製造技術では不可能だった製品デザインが実現できる点はメリットと言えるでしょう。
メリット②耐久性の高い製品の作成が可能
柔らかい素材を使用することで、衝撃吸収性や耐久性に優れた製品を3Dプリンターで作成することが可能になります。
特に、TPUやフィラフレックスといった柔軟性のあるフィラメントは層間接着性が高く、裂けにくい特性を持つため、長期間使用可能な耐久性が維持できるのです。
例えば、スマートフォンケース、靴底といった衝撃が常に加わる製品において使用すると効果を発揮します。また、柔らかい素材は繰り返しの曲げや圧縮にも強いため、弾力を維持しながら長く使用できる部品が製造可能です。柔らかい素材を活用することで、耐久性を求める場面でも適した製品を作成できる点がメリットとなります。
メリット③耐衝撃性の高いものが作れる
3Dプリンターで柔らかい素材を使用することにより、耐衝撃性の高い製品を設計・製造もできます。TPUやTPE衝撃を吸収し分散させる特性を持っています。この特性を活かして、スポーツ用プロテクターや電子機器の保護ケース、輸送時の衝撃吸収パッドなど、耐久性と柔軟性を両立した製品を作ることが可能です。
また、従来の方法ではコストや技術的な面で難しかった複雑な衝撃吸収構造も、3Dプリンターなら試作から製品化までスムーズに進められます。
3Dプリンターで柔らかい素材を使用するデメリット
3Dプリンターで柔らかい素材を使用するのはメリットだけでなく、デメリットもあります。デメリットは以下の2点です。
- 値段が高い傾向にある
- 手入れや整備を入念にする必要がある
デメリット①値段が高い傾向にある
3Dプリンターで使用する柔らかい素材は、一般的なフィラメントと比べて価格が高い傾向にあります。
例えば、TPUやフィラフレックスなどの特殊なフィラメントは、素材の製造プロセスが複雑で、柔軟性や耐久性を維持するために高品質な原料が使用されるため、1kgあたりのコストがPLAやABSに比べて数倍かかることも。また、これらの素材は高い弾力性を持つため、対応できるプリンターも限られるのが現状です。
そのため、素材に対応した機種や素材を買い揃える初期費用だけでも高くなり、長期的な視点で見るとランニングコストも高くなる傾向にあるのです。
デメリット②手入れや整備を入念にする必要がある
柔らかい素材を使用していくと定期的に3Dプリンターの手入れや整備を行う必要があります。
例えば、柔らかいフィラメントは硬い素材と比べて押出時に詰まりや絡まりが発生しやすいため、エクストルーダーやフィラメント送りの状態を常にチェックし、定期的に清掃する必要があります。また、柔らかい素材は湿気を吸収しやすく、長期間の保管には乾燥剤を使用したりと管理にも手間がかかるでしょう。
硬いフィラメントを使用する場合よりもメンテナンス作業が必要となるため、初心者にとってはハードルが高く感じられる場合があります。
硬い素材を柔らかくする方法はある?
3Dプリンターで使用する硬い素材を柔らかくする方法として、特性を利用した加工や熱処理が挙げられます。
例えば「形状記憶ポリマー(SMP樹脂)」は代表的な例で、一定の温度以上に加熱することで柔らかくなる性質を持っています。55℃以上に温めると柔らかくなり、加工や形状変更が可能になります。
一度変更した形状でも、再び加熱することで元の形状に戻る特性を持つため、柔軟な用途や特殊な設計に適しています。また、SMP樹脂以外でも、硬い素材に可塑剤を添加することで柔らかさを持たせる方法があります。ただし、元々硬い素材を柔らかくして使用するのはおすすめしません。
なぜなら、仮に造形ができたとしても精度が低下する可能性があるからです。素材の特徴を活かした造形を行いましょう。
3Dプリンターで使用するおすすめのフィラメントについては以下の記事を参照ください。
3Dプリンターの柔らかい素材についてのまとめ
本記事では、3Dプリンターで使用できる柔らかい素材について、それぞれの特徴や用途、メリット・デメリットを詳しく解説しました。柔軟性や弾性を持つ柔らかい素材は、デザインの自由度を広げ、耐久性の高い製品の製造が可能に。
また、PLAフレックスやフィラフレックスは初心者にも扱いやすく、試作品や特定用途の部品に適しています。本記事を参考に素材の特徴を理解し、用途に応じて最適な素材を選びましょう。
また、3Dプリンターのフィラメントを購入するのであれば3Dプリンター専門ショップ「Fabmart」の利用がおすすめです。フィラメントだけでなく、機種本体や周辺機器を扱っていますのでぜひご覧ください。