工業部品や試作製品、フィギュアにいたるまで、さまざまな制作物を作成できる3Dプリンター。仕事や趣味と用途が幅広く、価格帯と性能が異なる家庭用・業務用に分けて販売されています。
しかし、性能や用途が多様であるため、3Dプリンター選びが難しいと感じる方も多いのではないでしょうか。
本記事では、3Dプリンター初心者に向け、家庭用と業務用の違い、製品の選び方、注意点について解説します。また、初心者におすすめの3Dプリンターの家庭用を10選、業務用を5選も紹介していますので、参考にしてみてください。
3Dプリンターとは
3Dプリンターとは、デジタルデータをもとに立体物を作り出す装置です。「積層造形」と呼ばれており、金型を用いずに複雑な形状の製品を簡単に製造できる点が特徴です。
3Dプリンターが誕生したのは1980年代で、当時は製品の試作を素早く作り出す目的で運用されていました。現在ではプラスチックから金属まで多様な素材に対応し、製造業・医療・アートなど幅広い分野において、さまざまな目的で利用されています。
家庭用と業務用の違い
家庭用3Dプリンターは、家電量販店やオンラインショップで販売されており、数万円から数十万円で入手できます。PLAやABSといったプラスチック素材には対応しているものの、金属などには対応していません。造形精度・範囲には限界があるため、趣味や学習用途など個人的な利用に適しており、初心者にもおすすめです。
業務用3Dプリンターは、高精度な造形が可能で、プラスチック素材に加え、金属やセラミックスなど多様な素材に対応しています。価格は数十万円から数千万円と高額で、専門業者からの購入する形になります。使用には専門的な知識が必要なため、より高精度で機能性を求める企業や専門家向けといえるでしょう。
3Dプリンターで作れるもの
3Dプリンターで作れるものについて、造形方式・材料・仕組みも含めて表にまとめました。
造形方式 | 材料 | 仕組み | 作れるもの |
FDM(熱溶解積層方式) |
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熱で溶かしたプラスチックフィラメントをノズルから押し出し、層を重ねて造形 |
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SLA/DLP/LCD(光造形方式) | UV硬化性レジン(標準/歯科用/耐熱) | 液体樹脂を紫外線で硬化させて造形 |
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SLS/SLM(粉末焼結積層方式) |
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粉末状の材料をレーザーで焼結し、層を重ねて造形 |
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DLP(デジタル光処理方式) | UV硬化性レジン | プロジェクターを使用して一度に全層を硬化 |
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MJF/MJT(インクジェット方式) | 光硬化性樹脂(フルカラー対応) | インクジェット技術で粉末を結合し熱で固化/UV樹脂を噴霧して紫外線硬化 |
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3Dプリンターの使い道・用途につきましては、以下の記事で詳しく解説しています。
初心者向け3Dプリンターの選び方
大前提として、3Dプリンターは作りたいもの(目的)に合わせて選択することが重要ですが、その他にも下記の選定基準があります。
- 操作のしやすさで選ぶ
- 制作物のサイズに合わせて選ぶ
- 表現の精度で選ぶ
- 対応素材で選ぶ
- 本体価格で選ぶ
それぞれ見ていきましょう。
①操作のしやすさで選ぶ
3Dプリンターの操作のしやすさを判断する際、とくに重要なのが操作パネルです。初心者の場合、タッチパネル形式で、スマートフォンのように直感的に操作できる製品を選ぶとよいでしょう。シンプルなメニュー構成や分かりやすいアイコンがあると、初心者でも操作しやすくなります。
②制作物のサイズに合わせて選ぶ
作りたいものの大きさに合わせて製品を選ぶ方法も、3Dプリンター選びでは大切です。目安としては、以下のように小・中・大に分けられます。目当ての3Dプリンターが、どのサイズをカバーしているかチェックしてみてください。
- 小サイズ:約100mm×100mm×100mm
- 中サイズ:約200mm×200mm×200mm
- 大サイズ:約300mm×300mm×300mm以上
小物やフィギュアは小、部品や試作品なら中、家具や大型の模型などは大と考えて選ぶとよいでしょう。
③表現の精度で選ぶ
表現の精度の高さも3Dプリンター選びの条件になります。繊細なディテールを表現したいなら光造形方式、「手軽さ」を優先するならオートレベリング搭載のFDM方式がおすすめです。ただし、初心者には光造形方式は少し難しいため、最初はFDM方式から始めるとよいでしょう。
製品レビューや実際の造形サンプルをチェックすれば、具体的な性能が把握できますので、本体性能と併せて確認しておきましょう。
3Dプリンターの表現力には3DCADスキルも重要
3Dプリンターで表現するには、モデリングや設計のスキルも重要です。以下のセミナーでは、モデリングの基礎から応用まで学べるため、3Dプリンター初心者におすすめです。
セミナー名 | Autodesk Fusionセミナー講習 |
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運営元 | ProSkilll(プロスキル) |
価格(税込) | 41,800円〜 |
開催期間 | 2日間 |
受講形式 | 対面(東京・名古屋・大阪)・ライブウェビナー・eラーニング |
講習の期間が短期であるため、忙しい社会人の方でも受講しやすくなっています。3DCAD未経験者でも学べるカリキュラムになっていますので、活用してみてください。
④対応素材で選ぶ
対応素材も3Dプリンター選びの基準になります。目的の制作物に必要な素材が樹脂なのか金属なのか把握し、対応している3Dプリンターを選択しましょう。
⑤本体価格で選ぶ
本体価格も3Dプリンター選びで重要な判断基準です。家庭用モデルは一般的に2万円から20万円程度が相場となっており、業務用は数十万円から数百万円程度で、中には1,000万円を超える製品もあります。
初心者が最初に購入するなら、10万円以下の家庭用の3Dプリンターがおすすめです。何を作りたいか目的をはっきりさせ、その上で予算を考慮して3Dプリンターを選びましょう。
家庭用3Dプリンター初心者向け10選
ここでは、初心者におすすめの家庭用3Dプリンターを紹介します。10万円以下の製品を厳選しましたので、3Dプリンターの購入を検討している初心者の方は参考にしてください。
製品名 | メーカー | 価格 | 造形方式 | 特徴 |
Bambu Lab A1 mini | Bambu Lab | 約3万円 | FDM(熱溶解積層法) |
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ELEGOO Mars 5 Ultra | ELEGOO | 約5万円 | MSLA(光造形方式) |
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Anycubic Kobra 3 | Anycubic | 約4万円 | FDM(熱溶解積層法) |
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Creality Ender-3 V3 SE | Creality | 約4万円 | FDM(熱溶解積層) |
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Sovol SV06 ACE | SOVOL | 約5万円 | FDM(熱溶解積層) |
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AnkerMake M5 | AnkerMake | 約10万円 | FDM(熱溶解積層法) |
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ORIGINAL PRUSA i3 MK3S+ | Prusa Research | 約8万円 | FDM(熱溶解積層法) |
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Creality HALOT-MAGE | Creality | 約8万円 | MSLA(光造形方式) |
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FLASHFORGE Adventurer5M | FLASHFORGE | 約6万円 | FFF(熱溶解積層法) |
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QIDI TECH Q1 Pro | QIDI TECH | 約8万円 | FDM(熱溶解積層法) |
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①Bambu Lab A1 mini
Bambu Lab A1 miniは、手頃な価格ながら本格的な3Dプリンターの機能を備えた製品です。全自動キャリブレーション機能のおかげでセットアップが簡単なため、専門知識のない初心者にもおすすめの製品です。
2.4インチのIPSタッチスクリーンにより、初心者でも直感的な操作が可能で、スマートフォンのアプリからも動かせます。4色のマルチカラー印刷も可能で、複雑なデザインやカラフルな制作物も作れる点も魅力でしょう。
②ELEGOO Mars 5 Ultra
ELEGOO Mars 5 Ultraは、9K解像度(8520×4320ピクセル)とXY軸18μmの精細さを持ち、細部まで鮮明に再現できる3Dプリンターです。チルトリリース技術を搭載し、最大150mm/hの高速プリントを実現している点も魅力でしょう。
操作性の良さも初心者におすすめしたい部分です。AIカメラが造形状態をリアルタイム監視して失敗を防止するほか、ワンクリックのオートレベリング機能により手動調整が不要になっています。
③Anycubic Kobra 3
Anycubic Kobra 3は、最大600mm/sの印刷速度を誇り、250×250×260mmと比較的大きめの造形サイズであるため、幅広い用途に使用できる3Dプリンターです。4色から最大8色までの多色印刷が可能なため、複雑なデザインや色彩豊かな制作物を作れる点が魅力でしょう。
その他の機能も充実しており、自動ベッドレベリング機能をはじめ、振動抑制機能や流量制御機能を備えているため、安定した造形が可能です。できるだけ失敗しないように使いたい初心者にもおすすめです。
④Creality Ender-3 V3 SE
Creality Ender-3 V3 SEは、低価格ながら最大250mm/sの高速印刷機能を搭載し、一般的な3Dプリンターの5倍のスピードで制作物の作成が可能な製品です。デュアルZ軸によって印刷中の振動を抑えられ、精度の高い制作物を作成可能な点も特徴でしょう。
また、自動レベリング機能のおかげでプリント前の調整が不要で、素材がベッドに均等に接着される仕様になっています。加えて、TPUなどの柔らかい素材が詰まりにくいため、さまざまな素材を使ってみたい初心者にもおすすめの製品です。
⑤Sovol SV06 ACE
Sovol SV06 ACEは、600mm/sの印刷速度で短時間で制作物を作成でき、さらに耐久性・安定性にも優れた3Dプリンターです。自動レベリング機能のおかげで、初心者でも簡単にセットアップできる点も魅力でしょう。
操作性の良さも初心者におすすめの部分で、4.3インチのキャパシティブタッチスクリーンは、スマートフォンのように直感的に扱えます。また、オープンソースのプラットフォームを採用しているため、ニーズに合わせた設定ができる点も特徴でしょう。
⑥AnkerMake M5
AnkerMake M5は、一般的な家庭用3Dプリンターの5倍の速度で制作でき、さらに0.1mmの精度で細部まで美しく仕上げられる点が特徴の製品です。直感的に操作できるタッチパネルや、自動レベリング機能を備えているため、初心者にも扱いやすくなっています。
また、内蔵のAIカメラにより印刷中の進行状況をリアルタイムで確認できます。AIが印刷エラーの検知も素早く行うため、失敗のリスクを低減できる点も初心者におすすめしたい部分です。
⑦ORIGINAL PRUSA i3 MK3S+
ORIGINAL PRUSA i3 MK3S+は、造形物の剥がしやすさと耐久性を両立するなど、使い勝手の良さと信頼性の高さを備えた3Dプリンターです。自動でベッドの高さを調整し、印刷精度を向上する仕組みも備えているため、質の良い制作物を初心者でも作成できるでしょう。
他にも、フィラメント切れを検知する機能や停電復帰機能も搭載されており、トラブルを防止できる仕様になっています。ベッド温度異常やモーター故障を自動検出する機能も、3Dプリンターの扱いに慣れていない初心者におすすめしたい点です。
⑧Creality HALOT-MAGE
Creality HALOT-MAGEは、8Kモノクロ液晶を採用し、繊細なディテールを再現できる3Dプリンターです。樹脂自動充填・回収機能により、メンテナンスが簡易的になっている点は、とくに初心者におすすめしたい部分です。
また、片手で開閉できるMageArchフリップリッドや、交換式活性炭フィルターを採用し、使いやすさと安全性も両立している点も特徴です。さらに、同価格帯では最大級の228×128×230mmの造形サイズを誇っている点も本製品の特徴でしょう。
⑨FLASHFORGE Adventurer5M
FLASHFORGE Adventurer5Mは、組み立て不要なため、購入してすぐに使える3Dプリンターです。完全自動レベリングシステムにより、手動によるZ軸の調整が不要で、誰でも正確な制作物の作成ができる点は初心者におすすめの部分です。
素材に関しては、PLAやPETGなど初心者向け素材から、上級者向けのABSやカーボンファイバー素材まで幅広く対応しています。印刷速度は最大600mm/s、造形サイズも220mm×220mm×220mmと必要十分な性能が備わっています。
⑩QIDI TECH Q1 Pro
QIDI TECH Q1 Proは、組み立て不要ですぐに使え、自動キャリブレーション機能のおかげで初心者でも簡単に必要な設定が行える3Dプリンターです。静音設計にも優れているため、騒音が気になる家庭で使いやすい点もおすすめの部分でしょう。
素材に関しては、PLA以外にもABSやPA、カーボンファイバー入りフィラメントまで幅広く対応しています。60℃まで加熱できる密閉型チャンバーも備えているため、ABSやナイロンなどの反りやすい素材を用いた場合でも、高品質な印刷が行えます。
業務用3Dプリンター5選
続いて、業務用3Dプリンターのおすすめを紹介します。
製品名 | メーカー | 価格 | 造形方式 | 特徴 |
Raise3D Pro3 | Raise3D | 約90万円 | FDM/MEX(材料押出法) |
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Stratasys F370 | Stratasys | 約1,000~3,000万円 | FDM(熱溶解積層) |
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FLASHFORGE Creator4S | FLASHFORGE | 約150万円 | FFF(熱溶解積層法) |
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Zortrax M200 Plus | Zortrax | 約40万円 | LPD(Layer Plastic Deposition) ※FFF(熱溶解積層法)ベースの独自技術 |
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InnoventX | InnoventX | 約3,500万円 | バインダージェット方式 |
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①Raise3D Pro3
Raise3D Pro3は、高精度な造形と安定した出力品質を両立させた製品です。ABS/ASA/PC/ナイロン/TPUなど20種類以上の素材に対応しているため、さまざまな分野で活用できる万能な3Dプリンターです。
最大300×300×300mmと造形サイズに余裕があり、Z軸の位置決め精度も高く、積層ピッチも0.01mmから調整できる点も本製品の特徴です。精密な製品開発したい企業におすすめの製品です。
②Stratasys F370
Stratasys F370は、業務用3Dプリンターではトップクラスの性能を誇る製品です。最大の魅力は、355×254×355mmの大型造形サイズと最小0.127mmの精密な積層ピッチにあり、複雑な形状や内部構造を持つ部品の製造が可能な点は、とくにおすすめしたい部分です。
1,000〜3,000万円と価格は高額ですが、自動車・航空宇宙分野での機能検証や部品等の製造に対応できる点を考えれば、投資価値はあるといえるでしょう。
③FLASHFORGE Creator4S
FLASHFORGE Creator4Sは、産業用途に使いやすい業務用3Dプリンターです。最大400×350×500mmの大型造形が可能で、試作から最終製品製造まで幅広く活用できる点が魅力でしょう。
20種類以上の高機能素材の造形に対応しており、独立型デュアルエクストルーダー(IDEX)によって異なる素材の同時使用や量産ができるなど、工業に適した運用が可能な点がおすすめ部分です。
④Zortrax M200 Plus
Zortrax M200 Plusは、独自の造形方式LPDを採用し、最小0.09mmの精密な積層ピッチで高品質な出力を可能にした業務用3Dプリンターです。WiFiやイーサネット接続による遠隔管理機能に加え、内蔵カメラでリアルタイム監視もできるため、複数台の一元管理が行えます。
フィラメント切れ検知機能や停電復旧システムも搭載し、長時間の造形作業でも安心して運用できる点もおすすめ部分でしょう。
⑤InnoventX
InnoventXは、最先端のバインダージェット技術を採用した高性能3Dプリンターです。ステンレス鋼、コバルトクロム、インコネルなどの金属や、アルミナ、シリコンカーバイドなどセラミック、その他複合材料など幅広い素材に対応しているのが魅力でしょう。
造形サイズは160×65×65mmで、研究開発や試作製品の作成に最適なサイズとなっています。54cc/時の造形速度により、効率的な制作物の作成が可能な点もおすすめ部分でしょう。
3Dプリンター利用時の注意点
3Dプリンターは便利な製品ですが、間違った使い方をしてしまうと、故障・事故・健康被害につながるため、注意しなければなりません。ここでは、以下の項目に分け、3Dプリンターを扱う際の注意点を解説しています。
- 安全対策を怠らない
- 定期的なメンテナンスを行う
- 材料を正しく扱う
それぞれ見ていきましょう。
安全対策を怠らない
3Dプリンターの使用時には、高温部品による火傷や有害な微粒子の吸引などの危険があります。3Dプリンターの使用中は必ず保護メガネや手袋などの保護具を着用し、室内の換気を行いましょう。また、火災対策として消火器の設置も重要です。
定期的なメンテナンスを行う
メンテナンスを怠ると故障や事故につながるため、3Dプリンターの定期的なメンテナンスは必ず行うようにしましょう。
主なメンテナンス項目は以下になります。
- ノズルの清掃
- エクストルーダーの清掃
- 冷却ファン・フィルターの清掃
- 光学部品の清掃
- プラットフォームのレベル調整
- ファームウェアの更新
- 消耗部品の交換
材料を正しく扱う
3Dプリンターに用いる材料は、扱い方を間違えると故障や健康被害のリスクが高まるため、正しく扱わなければなりません。
たとえば、PLAフィラメントは湿気を吸収しやすく、適切に保管しないと吐出不良を起こす可能性があります。また、レジン材料は、皮膚刺激性があるため、直接触れないようゴム手袋着用が必須です。家庭用3Dプリンターが普及している現在、とくに小さな子供のいる環境では材料の取り扱いには注意が必要です。
3Dプリンター初心者おすすめまとめ
3Dプリンターは、工業部品からフィギュアに至るまで、さまざまな制作物を作成できるツールです。家庭用と業務用に分けられ、それぞれ用途の幅や価格帯が異なっている点が特徴です。
本記事では、初心者に向けて3Dプリンターの購入・使用の際に参考になる情報をお伝えしました。家庭用であれば数万円から入手できますので、3Dプリンターに興味があれば、本記事を参考に購入を検討してみてはいかがでしょうか。