3Dプリンターにおける造形物の品質を決める1つの要素として「精度」が挙げられます。精度を決めるポイントは様々で素材や機種本体のスペックによっても異なります。
特に複雑な形状の造形などは精度によって造形物の品質が落ちる可能性があるため、精度を保つためには様々な要素に注意する必要があります。
本記事では、3Dプリンターにおける精度の概要をはじめ、精度を決める要素や上げる方法など解説します。造形方式ごとにも精度を上げる方法を解説していますので、最後までご覧ください。
3Dプリンターの精度とは?
3Dプリンターにおける精度とは、プリントされた造形物が設計通りの寸法や形状にどれだけ近いかを示す指標です。
主に層の厚さや位置の正確さ、フィラメントの押出しの量によって決まります。高精度の3Dプリンターは、ミクロ単位の細かい層を積み重ねることで、滑らかで詳細な仕上がりを実現。寸法誤差が少なくなるため、機械部品や試作品の作成において重要です。
精度は使用する材料やプリント方式にも影響されます。例えば、熱溶解積層法は溶かしたプラスチックを層ごとに積み上げる方式で、フィラメントの直径や押出量の影響を受けやすく精度は0.1mm~0.3mm程度が一般的です。
後ほど詳しく解説しますが、3Dプリンターにおける精度は様々な条件で大きく異なります。
3Dプリンターの精度を決める要素
3Dプリンターの精度は以下の4点で決められます。
- Z方向の積層ピッチ
- X-Y方向の解像度
- 材料の収縮と反り
- サポート材の除去
Z方向の積層ピッチ
Z方向の積層ピッチとは、プリントの際に層が積み重ねられる高さのことを指します。この値が小さいほど細かく層が積み重ねられ、より滑らかで精密な仕上がりになります。
積層ピッチは一般的に数十μmから数百μmの範囲で設定でき、例えば50μmの積層ピッチでは非常に細かな層を形成できるため、表面が滑らかで細かい部分まで再現が可能になります。
逆にピッチが大きいと造形速度は速くなりますが、表面に層の境界が目立ちやすくなります。
X-Y方向の解像度
X-Y方向の解像度とは、プリントヘッドやレーザーがX軸とY軸、つまり水平面上で移動しながら材料を配置する際の細かさを示すものです。解像度が高いほど細部まで表現でき、精密な部品や美術品などの造形に適しています。
例えば、FDM方式ではノズルの直径やフィラメントの押出量が解像度を左右し、通常0.1mm~0.4mm程度の解像度が一般的です。一方、SLA方式やDLP方式ではレーザーや光の精度に依存し、より高精度な0.025mm~0.1mmの解像度を実現可能です。
解像度が高いほど、滑らかで緻密な造形物が作れますが、プリント時間が長くなる傾向もあります。
材料の収縮と反り
精度に大きく影響を与える要素の1つに材料の収縮と反りがあります。特にFDM(熱溶解積層法)のような高温で材料を溶かしながら積層する方式では、造形物が冷える際に材料が収縮し、結果として造形物が反り返ることがあります。
この現象は積層ピッチやX-Y方向の解像度といった設定以上に造形精度に大きく影響するのです。例えば、ABSのようなプラスチックは冷却時に大きく収縮しやすいため、反りが発生しやすく造形物が設計通りに仕上がらないこともあるでしょう。
サポート材の除去
造形完了後にサポート材を上手く除去できなければ、表面に残った部分が造形物の仕上がりに悪影響を及ぼします。
特に表面の滑らかさや寸法に誤差が生じる可能性があり細かいディテールや高精度が求められる場合、サポート材の除去作業が非常に重要です。
造形方式ごとの寸法精度
ここからは以下3つの造形方式ごとの寸法精度について紹介します。
- 熱溶解積層方式
- 光造形方式
- 粉末焼結方式
熱溶解積層方式
「熱溶解積層方式」における寸法精度は、他の造形方式に比べてやや低めで、一般的に0.1mm~0.5mm程度の誤差が生じることがあります。
これは先述した通り、フィラメントを加熱して溶かし層ごとに積み上げる際に材料の収縮や反りが発生しやすいためです。精度を安定されるのであれば、PLAなど収縮が少ないものを選びましょう。
光造形方式
「光造形方式」における寸法精度は非常に高く、一般的には0.025mm~0.1mm程度の誤差に抑えられます。レーザーや光を使用して液体の樹脂を硬化させる方法で、非常に細かい層を積み重ねていくためです。
特に細かなディテールや滑らかな表面仕上げが求められる場合に有効で、ジュエリーの試作品や医療用モデル、精密機械の部品作成など利用されることが多いです。
ただし、造形後にサポート材の除去やUV照射による再度硬化することが必要であり、寸法精度に影響することもあります。
粉末焼結方式
「粉末焼結方式」における寸法精度は、他の方式に比べて中程度で一般的に0.1mm~0.3mmの誤差が生じます。粉末焼結方式は、粉末状の材料(主にプラスチックや金属粉末)をレーザーや電子ビームで焼結しながら層を積み重ねるため、強度と複雑な形状の造形が可能です。
ただし、粉末焼結方式はサポート材が不要であり自由度の高い設計が可能ですが、焼結過程での材料収縮や冷却時の変形が発生しやすく精度が落ちる要因となります。
粉末焼結方式は金属部品や耐久性の高いプラスチック部品のプロトタイプ作成には非常に適した方式です。
以下の記事では3Dプリンターにおける造形方式ごとの特徴について詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
3Dプリンターの精度を上げる方法
3Dプリンターの精度を上げる方法は以下の4つです。
- 適切なプリンターの設定を行う
- 高品質な材料を使用する
- 適切な造形温度と冷却を保つ
- 素材の収縮を考える
適切なプリンターの設定を行う
精度を上げる方法として、適切なプリンターの設定を行いましょう。主に設定する内容は以下の2点です。
- レイヤーの高さを低く設定する
- プリント速度を遅くする
レイヤーの高さを低く設定する
レイヤーの高さとは、3Dプリントの際に各層を積み重ねる厚さのことです。この値を低く設定することで造形物の精度が向上します。例えば、0.3mmのレイヤー高さでは層の段差が目立ちやすく、表面が荒くなりますが、0.1mmに設定すると層が細かく積み重ねられるため、滑らかで高精度な仕上がりが得られます。
プリント速度を遅くする
プリント速度も精度に影響する要素です。一般的には速く設定すると造形時間が短縮されますが精度が荒くなり、特に高速でプリントするとノズルが材料を適切に押し出せず層間の接着が不十分になったり、形状が崩れたりする可能性があります。
そのため、プリント速度を遅くし各層が均等に積み重ねられるようにしましょう。
高品質な材料を使用する
高品質な材料を使用することで精度を向上させることが可能になります。例えば、フィラメントの純度が高いPLAやABSは、低品質なものに比べて収縮や反りが少なく精度が向上します。
しかし、高品質な材料はコストが高くなる傾向にあるため精度とコストを比較検討する必要があります。
適切な造形温度と冷却を保つ
造形温度はフィラメントや樹脂が適切に溶融し押出されるための温度であり、低すぎると材料が十分に溶けず接着が不十分になります。一方で、高すぎると過剰な収縮や変形を引き起こすことも。
具体的には初層を高温でプリントし、次第に温度を下げる方法など精度を上げるには効果的です。
素材の収縮を考える
造形時には素材の収縮を考えながら、造形を行う必要があります。造形する際は温度管理を徹底し、造形物が均等に冷却されるようにすることで、収縮の影響を最小限に抑えることができます。
収縮が少ない素材を選べば問題ありませんが、クセが少ない素材ほど高価な傾向にあるため「適切な造形温度と冷却を保つ」など工夫をしましょう。
安価と高価な3Dプリンターの精度に違いはある?
結論、安価な3Dプリンターと高価なハイエンドモデルでは精度に大きな違いがあります。安価な3Dプリンターは機種によって異なりますが、速度と精度を両立できないケースが多くあります。
一方で高価なハイエンドモデルは、材料の変形を抑える機能や高度な温度管理機能を搭載していることが多い傾向にあります。高速造形が可能な機種も多く精度を維持したまま短時間での造形が可能です。
安価な3Dプリンターと高価な3Dプリンターについては以下の記事で紹介しています。選び方も解説していますので参照ください。
3Dプリンターの精度に関するよくある質問
3Dプリンターの精度に関するよくある質問についてまとめています。
どの造形方式が最も高精度ですか?
一般的に、光造形方式(SLA)が最も高精度であり寸法誤差は0.025mm〜0.1mm程度です。一方、熱溶解積層方式は精度がやや低めで、通常0.1mm〜0.5mmの誤差が生じます。
安価な3Dプリンターでも高精度の造形は可能ですか?
安価な3Dプリンターでも高精度の造形は可能です。ただし、一般的には高価なハイエンドモデルの方が精度が高く、安価な機種は速度と精度の両立が難しい場合が多いです。
3Dプリンターの精度についてのまとめ
3Dプリンターにおける精度は、造形物の品質を左右する重要な要素であり、素材や機種本体の仕様によって様々です。特に複雑な形状を造形する際は、精度が低いと品質が大きく低下する可能性が高くなります。
高価なハイエンドモデルを導入すれば精度の心配もありませんが価格が高くなるため、安価な3Dプリンターを導入する際は本記事で紹介した「精度を上げる方法」や「造形方式」で精度を高める工夫を行いましょう
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